「生涯学習」と「ネットワーク」

~Virtual Wind Symphonyの理想と課題~

日本吹奏楽学会機関誌「ACCORD アコール」No.17<1997(平成9)年10月25日発行>掲載

 「Virtual Wind Symphony」は、東京都内を中心に活動している、まだ2年目のバンドです。まだまだ、人も楽器もそろわないバンドなのですが、「インターネット上での活動」と、「楽器のブランクがある人も気軽に来て再び楽器を手に出来るような生涯学習的な演奏活動」という2本柱で活動しています。

 最近は、吹奏楽人口も増え、それに伴って一般バンドも急増しています。しかし、多くは「吹けること」が前提。勿論、バンドとして活動するのですから、自分の与えられた責任を果たすのは当然ですが、現状では、大多数が「現役経験者」中心で、楽器を吹いたことがあって、楽器をせっかく持っている人でも、数年から十数年ものブランクのある人であれば、このような(吹けて当たり前の)雰囲気に入れないのではないでしょうか。

 また、社会人になると、練習に毎回でれるというのは、「なんて、ラッキー」という状態がほとんど、多くの方は、仕事を土日まで抱えて頑張っていることだと思います。

 でも、これではせっかく一度楽器を手にした事があっても、ブランクの長い人はわざわざ押し入れの奥から楽器を引っ張り出して来るでしょうか?また、多くの一般バンドは、なかなか他のバンドと交流する機会がない(しないだけ?多くの仲間と交流しているバンドだって存在する。)そんな状況を見て、聞いて、(職業柄か?)「生涯学習」の一環として、もう一度楽器を気軽に手に出来るようなバンドは出来ないか?という思いが、1つの契機になったのです。


 インターネットのサービスに、WWW(World Wide Web)というものがあります。所謂ホームページのサービスですが、これは、HTMLというコンピュータ言語を使い、画像も音声も張り込めビジュアルな情報を非常に手軽に発信できるものです。

 このHTMLでは、文章中に他のホームページのアドレスを指定すれば、全然他のページへジャンプすることも意図も簡単にこなしてくれます。

 WWWの中を泳いでいるうち、いろいろな一般バンドのホームページに出会いました。驚いたのは、ネットワーク上でホームページを使ってバンド同士が互いにリンクし合うことによって「交流」がいとも簡単に行われていたことでした。

 この出会いは、私の思いを実現するのには強い味方でした。早速、「ネットワークとオフラインで活動するバンド」を仲間たちに呼びかけ、Virtual Wind Symphonyは誕生しました。メンバーは、東京都を中心とする首都圏のメンバー、また、全国各地を結ぶ、オンライン上で情報交換・交流をするメンバーが主旨に賛同して参加してくれました。

 「生涯学習」と「ネットワーク」という2つのキーワードから生まれた、このバンドも、結成からはや2年がたってしまいました。

 バンド自体の運営は、一言でいって、「アバウト」。これは、楽団自体のコンセプトでもある「気楽に来れるバンド」の表れで、そのことが長所でもあり、また短所でもあります。そして、練習の方はと言うと、毎月第2・第4の日曜日に都内で集まり、とにかく音を出すことからはじめ、合奏も音階練習と練習曲(現在は、カンタベリー・コラール)を時間をかけてさらっています。また、この練習は、団員それぞれが持ち回りで指揮をすることにしています。自分がみんなの前に立つことで、単に演奏するだけではなく、バンドディレクター的な見方を養うことを目指しているのです。人数も毎回の練習に来れるのは10人足らず。なかなか曲にならず、元譜をアレンジしてどうにか音が出せるようにしています。

 そんな私達のバンドですが、当初の理想と共に、課題も多く存在しています。

 ネットワーク上の活動は、だれでも気軽に参加でき、ホームページ上からでも入団登録が可能なこともあり、比較的好調です。但し、どこのホームページでも同じですが、常に新しいコンテンツを提供しない限りはすぐに飽きられ、しまいにはだれも立ち寄ってはくれません。問題は、更新の手間です。10MB近い莫大な量のデータのメンテナンスは、なかなか大変です。どのようにして、効率的に情報を発信していくか、頭の痛い問題です。

 そして、ネットワーク上の団員同士の交流も、現在は一応同報メールを使った会議室を開いていますが、より広く、幅広い活動を行うためにはどの様にすればよいのか、悩んでいます。

 練習活動を行う上での課題は、1回の練習に集まる人数が少なく、また、パートが一定していないことです。これは、「気軽に社会人が来て楽器のブランクを取り戻す活動」を行う上では頭の痛い問題です。

 しかし、「自分のペースで参加する」ことに意義がある以上、この方針を変える気は毛頭ありません。現在、譜面に手を入れたり、足りない楽器のパートを(その場で!)渡してどうにかメロディーをつないで練習しています。いくら「ブランクがある」とはいえ、そこは「むかし取ったなんとか」。みんな、戸惑いもせずにちゃんとこなしてくれます。

 練習メニューを組む上で困っているのは、個人差があることもあります。同じ「ブランク」とはいえ、全国大会常連校でバリバリに吹いていたメンバーもいれば、中学校で1年間だけ吹いていたメンバーもいる。どこに合わせてメニューを組むか。この辺もまだまだ課題とも言えます。

 我がVirtual Wind Symphonyも結成から2年。「まだ」2年とも「はや」2年とも言えるところです。これからは、楽器の「リハビリテーション」のときにプロの先生に見ていただくなどの一層の充実も考えています。

 「理想」に燃えてはじめたこのバンドも2年目を迎え、さまざまな「課題」を抱えています。「課題」をひとつひとつ乗り越えて、よりよい活動を目指していきたいと思っています。

※本文は、1997(平成9)年当時、日本吹奏楽学会(現:一般社団法人日本管打・吹奏楽学会)の会報に当団の代表が寄稿した文章を同学会事務局の御了解をいただき、原文のまま掲載しているものです。

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