市民バンドの新しい可能性を求めてVirtual Wind Symphonyを結成して~

日本吹奏楽指導者協会会報Wind Forum ウインド・フォーラム」No.59<1996(平成8)年7月発行>掲載

 昨年春、東京に新しい一般バンドを旗揚げしました。名前は、「Virtual Wind Symphony」。”Virtual"という言葉は、最近よく聞かれる”Virtual Reality"=「仮想現実」から名付けたのですが、私たちのバンドは、ただ演奏活動を行うのみならず、コンピュータ・ネット上のまさに”Virtual"な空間において世界各地のバンドとの幅広い交流・情報交換を行うことを活動の大きな柱としています。

 私はこのバンドを結成する前、神奈川県で一般バンドに所属していましたが、そこは一言で言って「閉鎖的」なものでした。それは、自分たちの殻に閉じこもって、ほかのバンドなんか見ようともしない(ものが多い)、楽器さえ吹ければ良い(=楽器が下手な者は来るな)。週休二日制の普及による余暇の増大で「生涯学習」の必要性が叫ばれている現在、学校卒業後も楽器を続けたいという人のための受け皿であるはずの一般バンドの中には、もちろん、理想的な運営をされているところも多いと思います。しかし、私が目の当たりにしたのと同じ問題を抱えていらっしゃるバンドも多いと思います。

 そんな中、二つの出合いがありました。一昨年の暮れ、ある演奏会で「昔、吹奏楽部にいた」という女の子に出合いました。その子は長いこと楽器から離れていて、「また楽器を吹いてみたいけれど、ブランクが長すぎて吹けないから一般バンドには入れない・・・」とお言っていました。実際にはそんな事はないのでしょうが、大抵の一般バンドには「楽器をずっと吹いてきてまだ吹き足らない」人が集まるような雰囲気ですから、彼女のようなブランクの長い人間は結構萎縮してしまうようです。彼女の話を聞いて、「もっと気楽に集まって楽しく吹けるバンドを作ろうよ!」そんな思いになり、気が付いたら彼女を誘っていました。

 もう一つ、重要な「出会い」があります。コンピュータとの出会いです。彼女と出合ってから半年後、夢にまで見た、マッキントッシュを買いました。それから数ヶ月は、コンピュータの練習、そんな中、パソコン通信ネットの「ニフティー・サーブ」のなかに『吹奏楽の部屋』というものがあり、ネットワークを通じていろいろなバンドのメンバー同士が交流をしていることを知りました。それこそ、家にいながらにして全国各地の同じ吹奏楽を志す仲間と気軽に交流ができるのです。

 もっと、もっとコンピュータをいじっているうちに、「インターネット」の存在を知りました。「インターネット」の利用法は様々なものがあるのですが、その中でも、特にWWW(World wide Wave)というものに注目しました。この中では、ホームページといういわゆる雑誌のグラビアのようなもので文字・画像・音声などを使って世界中に、自分たちの情報を流せるのみならず、ほかのバンドの同じようなページともリンクし、マウス一つで相互になおかつ簡単に行き来できるという、優れたコミュニケーション・ツールです。

 これを知ったとき、自分自身が感じていた問題意識に立ち向かうものや、そして、方向性が見えてきました。そして、新しいバンドを作るべく、全国にいる自分の知り合いに趣旨を話し、協力していただきました。

 そして、昨年より冒頭に掲げた、演奏活動とネットワークでの交流を柱にしたバンドを結成、東京都一般吹奏楽連盟にも加盟しました。バンドの性格からいって、メンバーは現在、全国で約30名。ネットワークを通じて入団した方も出てきています。ネットワークでの活動は現在まだまだ何ができるのか、どこまでできるのか、試行錯誤の段階なのですが、現在、インターネット上にホームページを開き、その中で国内・外のバンドのホームページをリンクし、交流を行っています。

 演奏活動については、東京と周辺のメンバーが概ね月一回集まって江戸川区内で活動しています。まだまだ人数が少ないため、大きな曲はできませんが、「ブランクの長いものが気軽に吹きに来れ、しかも一緒に楽しめるバンド」を目指して活動しています。

 私事になりますが、4月から職場が公民館というまさに生涯学習の最前線へと異動となり、自分であちこちにバンドを見学させていただいて勉強することが難しくなってしまいました。そんな中で本当に「試行錯誤」の連続ではありますが、「生涯学習」の時代の中における一般バンドの新しい可能性を求めて、今後とも頑張りたいと思います。皆様におかれましても、どうかご指導のほどよろしくお願い致します。

※本文は、199(平成8)年当時、日本吹奏楽指導者協会(現:公益社団法人日本吹奏楽指導者協会=JBA)の会報に当団の代表が寄稿した文章を同協会(広報委員会)の御了解をいただき、原文のまま掲載しているものです。

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